中央分水嶺踏破シリーズ9

野反峠〜三国峠 山行記

 

 野反峠〜三国峠は、分水嶺関東シリーズの中でも屈指の難コースである。屈強の大学山岳部がトレーニングに来るような厳しい薮、しかも、途中にエスケープルートがない。「関東ぐるり一周山歩き」の上野氏、また、日本山岳会も残雪を求めて、5月連休に踏破を行っているが、随所に露出した薮に苦労している。そこで、我々は雪の豊富な3月下旬、春分の日の連休に3泊4日の予定で計画を立て、前の週には、登山口、下山口の下見までして、このコースの踏破に備えていた。しかし、実施予定日、荒れた天気の予報となり山行中止とした。実際に、各地で強風による被害が発生し、やむを得ない選択であった。このため、今回は五月連休を利用しての再挑戦となった。今年は、例年になく雪が多く、また、4月末にも積雪があったので、十分な積雪があることを期待して出発した。

 

 


5月2日 日曜日 快晴

 5時前に家を出て、東京駅に向かう。「あさま501号」に乗る予定だったが、一本前の「とき301号」の自由席が空いていたので、これに乗り込む。連休の帰省客で混んでいるかと思っていたが、早朝のためか、自由席にも立ち客はいない。高崎駅で全員集合。吾妻線に乗り込む。大きなザックを持った女子高生が乗ってくる。ワンゲル部の合宿だろうか?

8:48 長野原草津口に到着。予約していたジャンボタクシーに乗る。今回の参加メンバーは9名で、ちょうど定員いっぱい。経済的である。和光平の冬季閉鎖ゲートを越えて、野反湖に向かう。3月に下見に来たときには、ゲートの先の路肩には雪が残っていたが、今は新緑の世界に変わっている。1時間足らずで野反湖に到着。昨年、11月に下山してきたときには、閉鎖されていた売店も営業している。その時は、真っ青だった湖面は氷に覆われているが、湖畔の雪は大分溶けている。

10:03 ストレッチをし、記念写真を撮ってから八間山に向けて出発する。最初のトップはSさん。丸太で作られた階段を快調に登っていく。10段ごとに段数が書かれた札が付けられている。工事の際に着けられたものだろう。



10:24−28 澄み渡った空、風も無く、すぐに汗が出てくる。皮剥ぎ休憩。岩井さんと僕は、半袖姿に。これでも、少しも寒くない。

11:00−05 休憩。ここで、トップを村上さんに交代。さらにペースを上げて登っていく。高度が上がるにつれて、登山道にも雪が現れる。多数の踏み跡がある。

11:30−35 八間山に到着。二人連れに出会う。地元の方で、今日は、ここから引き返すのだという。ここから先も、複数の踏み後が続いている。登山道も整備されていて、迷う心配は無い。

12:12−26 ざくざくとした雪で、滑る心配は無いが、小さな雪庇をトラバースする箇所も現れるので、念のためアイゼンをつける。ここから、トップが武沢さんに替わり、ようやく、ゆったりとしたペースに落ち着く。西側は緩やかな傾斜、東側は急な斜面になっている。雪の状態がよくないところでは、稜線を避けながら登っていく。途中で、僕がトップになり、ペースに気をつけながら登っていく。堂岩山の肩にはオレンジ色のテントが張られていた。テントの外から声を掛けるが、留守のようだ。白砂山へのピストンに出かけているのだろう。白砂山は右側だが、分水嶺の通る西側のピークに登る。

14:12−22 堂岩山山頂。県境沿いに沢山の踏み跡がついている。分水嶺は、登ってきた八間山を通る尾根なのだが、県境は野反湖の北側の尾根を通っており、こちらのルートの方が登山者が多い。一服してから白砂山に向かう。最初のうちは、稜線の南側の雪が落ちていて、石楠花や笹が露出している部分もあったが、向かう白砂山は真っ白に雪化粧している。

16:05 白砂山に到着。北側には佐武流山から苗場に向かう稜線が続いている。ここから東側に向かう尾根は、いよいよ未踏のルート、と思ったが、雪の上にはトレースが続いていた。



16:17 少し降りた肩に平地を見つけて、今日のテントサイトとする。スコップを使い2張り分のスペースを整地。さらに、花坂さんがトイレの造成を行なう。まだ、日は高いが、さすがに、少し涼しくなってきたので、今夜はテントの中での食事とする。ワインで乾杯。エリンギやアジの網焼きにお酒が進む。夕御飯は親子どんぶりに舌鼓を打つ。アナゴ丼の予定が、アナゴが入手できずに急遽メニュー変更になったらしい。坪井さんのおいしいメニューが、また一つ増えた。



 

5月3日 月曜日 快晴

3:00 起床。星空が綺麗だが、放射冷却も無く、暖かな朝。お餅のスープの朝食を取り、テントを撤収する。今回、Sさんは、朝の荷造りに自信あり、といっていたが、言葉の通り、4:30には、全員の準備が揃いストレッチを始める。

4:40 十倉さんをトップに出発。本当は、4:30出発の予定だったが、10分ぐらいは誤差の内、ということにしよう。朝焼けが綺麗。雪は適度に締まっていて歩きやすい。緩やかな傾斜を快調に下る。上ノ間山の頂から朝日が昇る。



5:16−23 休憩。先行者の足跡に交じって、大きな熊の生々しい足跡。



5:29−37 上ノ間山に到着。踏み跡は東の尾根に続いているようだが、ルートはここで北に曲がる。傾斜がきついが降りれなくはなさそうだ。山本さんをトップに下る。少しトラバースしながら、潅木がまばらに立っているあたりを下る。下ったところで右手から踏み跡が合流していた。彼らは、東側の尾根を巻いて登ったのだろう。しばらくいくと、二人組みのパーティと出会う。まさか、この山域で別パーティに出会うとは思っていなかった。彼らは、旧三国スキー場から登ってきたとのこと。また、我々の先に7人パーティが先行しており、トレースがしっかりあり、途中にヤブも無いとの事。先ほどの踏み跡の持ち主も含め、少なくとも4パーティが、この連休中にこのルートを歩いていることになる。難関コースと気合を入れて挑戦したのに、なんか、拍子抜けしてしまった。

7:03−20 忠次郎山に到着。白砂山から上ノ間山への稜線が綺麗に見える。朝の2時間半で随分な距離を稼いでしまった。

7:59 上ノ倉山を通過。東の方向、はるかかなたには、送電線の鉄塔が何本も見える。あの辺りが、日本海側の発電所から関東地方へ電力を供給している送電線が通る三国峠だろう。このあたりは、西側は樹林帯、東側は急斜面で、稜線上は、石楠花が混じる潅木隊になっている。ところどころ石楠花を跨ぎながらのルート開拓は必要だが、概ね雪に覆われておりスムーズに進行できる。雪が少なかったら、このあたりで相当苦労することだろう。

8:11−23 大黒ノ頭で休憩。尾根はまっすぐ北へ続いているが、分水嶺の尾根はここから東に折れる。気温はどんどん上がり、のどが渇く。すでに、1リットルは飲んだ。皆、テルモスのお湯に雪を入れて、消費した分を増量して、水分補給をしながら進む。

9:20−25 セバトノ頭で休憩。ここから先、穏やかなアップダウンを繰り返しながら三坂峠まで下る長い尾根が続く。北側斜面には真っ白な雪、南側には汚れた雪、と色分けされている。麓でも4月27日に20cmの積雪があったとの事なので、北側斜面に残る雪は、4月の末に降ったものだろう。ただし、低木の上に積もった雪の下は空洞になっている。先頭のSさんが、ふっと消える。腰まで雪に埋まって、うめいている。雪ノ下の岩で足を打ったようだ。幸い大事ではなかったようだが、慎重に雪の状態を観察しながら雪の上、笹薮の中、とルートを選びながら進んでいく。



10:32−40 休憩。高度が下がってくると雪の無いところも、所々に現れるが、まだ笹の勢いは弱く、アイゼンで踏みつけながら進んでいける。



11:33−48 休憩。あまりにも快適な雪の状態と、歩きやすい気温で、予定して時間よりも3時間も早く進んでいる。前方には、今日の予定幕営地の東稲包山手前のテラスが見える。一気に三国峠まで行ってしまおうかとの思いもよぎったが、こんなに快適な山を早く降りてしまうのはもったいない。今日は、予定の泊地までと決めて、のんびりと歩く。

12:45−13:18 ひとしきり急登でピークに到着。西稲包山との標識がある。西側には機能から歩いてきた稜線が一望できる。東には明日の目的地。さらに、北側には、7月に行く予定の谷川連邦が見える。平標山、仙ノ倉岳、少し奥に万太郎。そして、彼方には至仏山、武尊山が見える。



13:27 少し降りた平地を今日の泊地とする。東側の高みにはテントが見え、元気な話し声が聞こえてくる。先行している7人パーティのようだ。テントを設営した後、円形テーブルを堀り出す。花坂さんは、再び立派なトイレを2箇所造営するが、女性人からは、あんなに遠くに作らなくても、、との声も。Sさんは眩暈がするといって、テントで横になってしまう。暑さの中、水不足で脱水症状になったようだ。我々も、お酒を飲む前に、お茶を飲んで、水分を補給する。Sさんも、水を飲んでしばらくすると完全復帰、酒盛りに加わった。今日も、日本酒、焼酎、ウィスキー、ブランデーとお酒は豊富。つまみも豊富、話題も豊富で、時間がたつのを忘れる。



 

5月4日 火曜日 快晴

3:30 起床。残る行程もあとわずか。昨日よりも30分ゆっくりとした出発にする。日に3回の天気予報と気象通報をタイマー録音していたのだが、昨日はチェックもしなかった。やはり、それではまずかろうと思い、録音しておいた天気予報を聞く。今日の天気も晴れ。下越地方では、午後の降水確率が高くなっているが、この辺りでは崩れる心配は無い。昨日は、各地で夏日を記録したとの事だが、今日はさらに上がって、最高気温は27−29℃の予報だ。

アイゼンを装着していると、村上さんのアイゼンのベルトが切れてしまった。ロープスリングで応急手当をして装着する。朝から気温が高く、雪もやわらかいので大丈夫だろう。

5:22 出発。先行の7名のパーティーが登っているのが見える。

5:44−50 小稲包山を経て、東稲包山に到着。先行パーティは、ここから四万温泉に向かう南側の尾根に進んだようだ。我々は、北側の分水嶺の尾根に進む。ようやく、バージンスノーか、と思ったが、ここにもトレースがあった。

6:05−08 東稲包山から降りた肩で、これまでに来たルートを振り返る。白砂山から大きなS字カーブを描いて歩いてきたルートが一望できる。良くこれだけの距離を歩いてきたものだ。

6:56−04 キワノ平ノ頭を過ぎる。



直ぐしたには三国スキー場が見える。その北側に2本の塔が見えるのは、苗場スキー場のゴンドラ駅だ。

7:35−45 尾根が西向きに方向を変えると前方に三国峠が見えてきた。9:30に迎えに来てくれるようにタクシーを呼ぶ。

8:26−40 鉄塔の脇を過ぎて、岩っぽい急坂をアイゼンを引っ掛けない様に気をつけながら登ると長倉山に着く。登山道の雪もなくなったので、アイゼンを外す。ここから、分水嶺の終着点までは、僕にトップを譲ってくれる。長倉山からの下りは、ぬかるんでいて滑りやすい。アイゼンをしたままの方が良かったかなどと思いながら慎重に下る。三国峠への最後の下りは、ふたたび雪があらわれてキックステップで下る。十倉さんがピッケルのカメラを固定して、全員そろっての写真を撮る。



9:03−08 三国峠に到着。3月に下見の時には、下をくぐれないほどに雪に埋まっていた鳥居が、すっかり全容を現している。



9:32 広い登山道を下って上越橋に到着。2台のタクシーに乗り込む。猿ヶ京温泉の「まんてん星の湯」に行く予定だったが、運転手さんに、温泉と食事をゆっくりと楽しめることころは?と聞くと、遊神館というところを勧められたので、そこに向かってもらう。運転手さんに三国峠の謂れについて聞くと、詳しく教えてくれる。三国峠には、御阪三社神社があり、上野赤城明神、信濃諏訪明神、越後弥彦明神を祀り、上野国、信濃国、越後国の国境になっていたとの事。今の三県境は白砂山だけど、三国街道が通り、古くから上野・越後の交易の接点だったこの地こそ、三国峠の名にふさわしいのかもしれない。我ら中央分水嶺踏破部隊は、2009年3月21日7:45に群馬/山梨/長野県境の三国峠を出発し、群馬/長野・新潟県境の白砂山を経由し、1年1ヶ月13日と1時間18分を掛けて、上野/信濃/越後の三国峠までを完踏したのだ。

 タクシーは、猿ヶ京温泉街を過ぎ、路線バスの走る17号線から右折して、さらに走っていく。遊神館も、猿ヶ京にあるのかと思っていたが、随分離れたところまで連れて行かれてしまった。タクシー代稼ぎに、ぼられてしまったかな、とも思いつつ、奥平温泉 遊神館に到着。公営の温泉設備。隣接して地元野菜の販売所があり、丁度、収穫祭のお祭りをしていた。牛乳が無料配布、とのことで行ってみるが、未だ準備できていないとの事で、先に、お風呂に入ることにする。3時間まで550円の料金を支払い温泉に入る。時間が早いこともあり、程よい混み具合。汗を流してから、露天風呂につかる。気持ちのより日差しの中、筋肉の疲れを癒す。内湯には、季節に合わせてピンク色の桜湯も設けられていた。色はちょっときつ過ぎる感があるが、目を閉じると桜の香りに、心が休まる。

大広間に行って生ビールを頼む。キリン・アサヒ・エビスのどれにしますかと尋ねられるので、エビスを頼む、どの銘柄もジョッキで550円。皆が揃ったところで、ピッチャーに切り替えて、しばし飲んだ後、桜の木の下で飲みましょう、ということで外に出る。収穫祭の会場では、分厚いしいたけの串焼きが200円、焼きそばも200円。250円の缶ビールを買いにいくと、武沢さんが、なにやら淡色の液体を飲んでいる。ビールを売っていたお兄さんが飲んでいたのを頂いたらしい。僕も私も、というわけで、たちまち、「水芭蕉 特別本醸造」を飲み干してしまい、もう一本の、「昔の復刻酒」も味あわせてもらった。「水芭蕉」は滑らかで飲みやすく、「復刻酒」はきりりとした味。近くの酒屋から、お祭りのために差し入られたという、この2本のお酒は、たちまち無くなり、祭りの実行委員の方が追加で買いに行くことになった。さらに、武ちゃんは、実行委員長のタラの芽もあるよ、との話に、それも食べたい!と。ちょっと迷惑顔の奥さんと一緒に、車に乗り込んでご自宅まで押しかけてしまった。監視役に十倉さんを送り込んだのだが、なかなか帰ってこない。その間にも、地元の人と、いろいろな話をする。88歳のおじいさんからは、熊を打ったら、一時間半も暴れていて恐ろしかった話や、うまい鹿肉の話を伺う。ようやく、二人もタラの芽の天麩羅を手に戻ってきた。すっかり、お祭りに乱入してしまった形になったが、おいしい山菜、お酒と、地元の人たちとのコニュニケーションを楽しめた。帰り際には、お水も頂く。お茶には向かないが、お酒を割ったり、ロックの氷にすると最高との事。4リットルの特大ペットボトルで3本も頂いてしまった。最後は、収穫祭のテントの撤収も手伝って、お礼を言って別れる。上毛高原からの新幹線は帰省から戻る人たちで混雑していた。デッキに座り込み、うとうとしている間に東京に着く。




 分水嶺関東シリーズの難所の一つと思っていた野反峠〜三国峠の行程は、今年の多雪と、絶好の天気に恵まれて、拍子抜けするほど快調なスノーハイキングとなった。また、途中であったパーティ、踏み跡の多さからも、分水嶺、県境を歩く仲間が沢山いることを実感した。今回の参考で、群馬/長野県境の分水嶺を完踏し、いよいよ部隊は群馬/新潟県境に移る。谷川を越えると、再び、ヤブのロングコースが待ち構えている。次は、今回のようなラッキーな山行にはならないだろう。油断をせずに、でも、思いもかけない出会いにも期待をしつつ、分水嶺を続けていこう。

 

5月2日 歩行距離  8.5km 行動時間 6:15 累積登攀標高 1156m 累積下降標高  613m

5月3日 歩行距離 11.8km 行動時間 8:47 累積登攀標高  920m 累積下降標高 1488m

5月4日 歩行距離  7.0km 行動時間 4:10 累積登攀標高  551m 累積下降標高  972m

MCj03056710000[1]

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