2012年3月29日〜4月1日
分水嶺29 枯木山
枯木山 春の嵐も 我が味方

ichiran ichiran  map

メンバー:Aテント MrT(CL)、TuB(SL)、YbT
      Bテント KsM、TkZ、YmT、YsN
 福島/栃木県境の手ごわき藪、最後まで残ったのが枯木山と黒滝股山の2カ所だ。枯木山は、昨年4月に計画していたのだが震災の影響で中止。11月にも計画したが、積雪により林道の冬季閉鎖が早まり断念。黒滝股山は参加者が集まらず断念、と躓いている。黒滝股山は、2回に分けて秋に実施することにしたが、藪が厳しい枯木山は、なんとか残雪期に突破しておきたい。そこで計画したのが今回の山行である。平日を2日も休む日程に、メンバーが集まらないのではと危惧していたが、精鋭7名が集まった。後半に崩れる天気予報に悩み抜いた末の実施決断であったが、テントの中で寒冷前線をやり過ごし、行動中は天気に恵まれ、空白区間を接続することができた。天は我に味方せり。


 枯木山と聞いて、どこの山かすぐにわかる人は少ない。しかし、栃木の山岳界では「枯木山に登って一人前」と呼ばれる山である。大学山岳部が藪トレに使うようなルートで、無雪期の踏破は困難である。一方、冬になると取り付きの田代山峠に至る林道が、栃木側、福島側ともに、峠から10km以上も手前で閉鎖されてしまいアプローチが困難になる。2011年の冬季閉鎖予定日は11月25日だった。冬季閉鎖の直前のタイミングを突いて、2泊3日で計画したのが前回の計画だったのだが、例年よりも早い降雪で、11月16日に前倒しで閉鎖されてしまい実施を断念した。今回は、雪の林道歩きのために行程を1日増やして計画した。
 春は移動性低気圧により周期的に天気が変わる。4日間晴天が続くことは望みがたい。初日の林道歩きは悪天でも後半が良ければ、と期待していたのだが、予報は逆。前半は晴天なるも、土曜日には寒冷前線が東北地方を横切り、日曜日には北海道で低気圧が発達して風が強まるという危険な予報。出発の2日前に実施の可否を判断する予定だったが判断を持ち越して、実施前日にSLと相談。いろいろと葛藤の末、引き返すことを覚悟の上で、ともかく行ってみよう、ということにした。

2012年3月29日 木曜日 快晴

 7:10 上野発の東武線。これに乗るのは何回目になるだろう。北千住のあたりから混雑すると思っていたけど、ほとんど立っている人はいない。春休みで学生がいないのだ。しばらく走ると、左手に真っ白に輝く日光の山が見えてくる。この天気がずっと続いてくれるといいのだけれど。会津高原の駅で降りる。
 10:22 ジャンボを頼んでいたのだが、前日に石に乗り上げてしまい修理中とのことでプリウス2台に乗り込む。舘岩から県道350号栗山舘岩線に入る。水引の集落を過ぎたところで突然除雪区間が終了。タクシーを降りる。強い日差しが雪に反射してまぶしい。スパッツをつけて、日焼け止めを塗る。上着を脱いで襟のないシャツ1枚になる。YsNさんからバンダナを借りて首を保護する。
 11:27 50cmほどの積雪をに覆われた林道を歩く。ほどほどにしまっていて沈まない。長い林道歩きのスタート。
林道開始 林道歩き
タクシーを降りて林道歩きの準備をする

楽そうに見えて、辛く長い林道歩き

 12:21−33 1時間ほど歩いて一回目の休憩。稼いだ標高は100m余り、距離は2.6kmほど。雪が深くなってきたのでワカンをつける。しばらく歩いていると、後ろからスノーモービルがやってきた。地元のおじいさんが乗っていた。10分ほどすると引き返してきた。スノーモービルの轍を歩いていくが、時々ずぼっと落ち込みペースは上がらない。
 13:33−50 さらに高度を100mほど稼いだが、まだ林道歩きの半分に達しない。変化を求めてヘアピンをショートカットして登る。時折、現れる道路標識には登山口まで9kmの表示。なかなか数字が減らない。
 14:47−57 3回目の休憩。くねくねした林道の歩き。先ほど休憩した地点から直線距離では500mほどしか進んでいない。今日は楽勝の林道歩きの積りだったのだが、とんだ誤算。雪の林道歩きがこんなに疲れるとは思っていなかった。
 17:05 田代山登山口手前の広場で初日の行動を終えることにする。トイレの屋根の上には2mを超える雪が積もっていた。念入りにストレッチをしてテントを設営する。ワインで初日の労をねぎらう。野菜をいっぱい入れた煮込みラーメンで英気を養う。

2012年3月30日 金曜日 晴

 3時に起床。ネギ塩スープにお餅を入れた朝食。
 5:05 明るくなるのを待ってワカンをつけて出発。5:15 田代山登山口を通過。昨年6月。バスをチャータして18名の大部隊で帝釈山から下山してきたポイントだ。これで尾瀬から続くルートとつながった。これを安ヶ森峠までつなげるかどうかは、この後の天候次第だ。頭の中でケーススタディーをしながら歩く。今日の幕営予定地の1692mまで行ってしまうと引き返す手はなくなってしまう。引き返すのであれば、1706mまでに判断しなくてはならない。1692mまで行った場合には予定通り分水嶺を進むか、エスケープBと名付けた栃木側のルートを下るかの2択になる。分水嶺の尾根はアップダウンがあるが、エスケープBは単調な下りで日曜日に予想されている西風も受けにくい。多少、天気が崩れても安全は確保できそうだ。その時、悪魔のささやきが聞こえてきた「エスケープを使ってもルートはつながるよ!」。エスケープの下山先は、安が森キャンプ場。昨年11月に荒海山に行ったときには、安ヶ森キャンプ場の少し先から歩いている。エスケープを降りた後、少し林道を歩けば「繋ぐ」ことはできる。悩みながら歩いている間、女性部隊が先頭に立ってヘアピンをショートカットして高度を稼ぐ。
 6:46−7:07 県境尾根に到着。ようやく分水嶺に乗った。携帯で天気をチェック。低気圧は黒龍紅省のあたりで996hPaに発達している。やはり土曜日に、この低気圧から延びた寒冷前線が東北地方を横切りそうだ。福島あたりでは前線が途切れるような予想図になっているのが救い。日曜日にはオホーツク海で970hPaまで発達するが、その影響が福島に及ぶかどうかは低気圧の位置によって微妙なことろだ。とりあえず、テントを担いで前進し、正午に引き返すかどうかの判断をすることにする。ワカンをアイゼンに履き替えて出発。栃木側には雪庇ができている。福島側は林になっている。ときどき潜りながらも、藪に前途を遮られることも無く順調に進む。藪を覆うこの雪を求めて、昨日は長い林道歩きに耐えたのだ。
県境峠 栃木側には雪庇
県境の田代山峠、いよいよ分水嶺に取り付く

栃木側には雪庇、福島側の樹林帯に沿って歩く

枯木山
枯木山と分水嶺の通る南の肩

 9:11−25 1663.3mから北西に伸びた肩で休憩。気持ちの良い尾根歩き。この天気が続けば、何の問題もなく分水嶺を歩きとおせるのだが。
 11:07 1633につながる尾根を左折して1600に下る。このポイントを正午までに通過できなければ、引き返すことを考えようと思っていたが、余裕をもって通過。
 12:26−55 1706mで休憩。予想外の好天にのどが渇く。YbTがコッフェルを出して水作りを始める。皆で熱いコーヒーの回し飲みをする。分水嶺で行動中にコッフェルを出したのは初めて。厳しい行程でも、ほっと、息をつく時間を作ることは大事だと、改めて思う。
 14:07 枯木山に登る手前の鞍部に着く。メンバーには昨日の林道歩きの残っており、無理はしない方が良さそうだ。枯木山の肩までの100m余りの登りは、明朝、雪が締まっているときに登ることにして、今日はここで幕営とする。ストレッチをしながらテント設営地の目星を付ける。離れたところから見ると平坦に見えたところも、その場所に行ってみると意外と傾斜がある。時間には余裕があるので、しっかりと整地をしてテントを設営。KsMが雪のテーブルを作る。テーブルを作ったのは久しぶりだ。鎌倉豚の角煮と青梗菜の丼に舌鼓を打つ。
テントサイト 雪のテーブル
段々畑のように開拓したテントサイト ワカンで雪止め

雪のテーブルを作る


2012年3月30日 土曜日 晴のち雨、夜雪

 3時に起床。星が見えている。9時ごろから雨になる予想だ。1692から先、分水嶺を行くか、エスケープに逃げるかの判断は保留したが、悪魔のささやきになびきつつある。
 5:20 アイゼンをつけて出発。気温が高く、雪は腐ったままだ。短い時間でトップを交代しながら高度を稼いでいく。最後の登りで僕に順番が回ってきた。右側に曲がる尾根に気を付けながらも、潜った足を引き抜くのに必死で遮二無二前進する。しかし、傾斜が緩くなり、尾根がさらに左にカーブしてきたのでGPSで現在地を確認する。分水嶺の尾根を通り過ぎて、枯木山に向かう尾根に入ってしまったようだ。少し戻って東に伸びる尾根を探すが、雪庇が出ているので先の様子がわからない。もっとも高くなっているところで、ロープで確保してもらい、雪庇の先端まで様子を見に行く。20mほど南から尾根が出ていることを確認。南に移動して、もう一度、ロープをセットして尾根の状況を確認する。ちょうど雪庇が小さくなっており、簡単に乗り越せそうだ。ピッケルで雪庇を崩して、通路を確保する。ロープなしでも降りれそうだったが、念のため30mロープを2本つないで懸垂下降で降りることにする。途中まで降りると、雪面にワカンの跡があった。下から登ってきて雪庇の乗越を断念して引き返したようだ。下降点でメンバーが降りてくるのを待つ。右手には雪庇が崩落した跡がみられる。分水嶺の尾根に沿って、雪庇は続いているようだ。まだ、雨は降っていないが雲が低くなり、北風が強くなってきた。
雪庇の先を偵察 懸垂下降
ロープをつけて雪庇の先を偵察する

雪庇の隙間を超えて、急斜面を下降

 7:55−8:02 1692に向かう手前の鞍部で風をよけて休憩。ワカンの跡を追って1692に登る。風が強い。ワカンの跡も南のエスケープルートに向かっているのを確認して、我々もエスケープルートを入ることにする。雪が深い斜面を下っていく。エスケープの判断に安心したのか、皆、元気を出してぐいぐいと下っていく。1500mまで下ったところでワカンの跡は南西の尾根に下って行った。ピンクのテープが点々とつながっており、湯西川温泉に降りるルートがあるようだ。我々が進む東の尾根にはスノーシューの跡がとぎれとぎれに続いている。トレースの主は、東の尾根から登り、雪庇を見て引き返し、南の尾根に下って行ったのかもしれない。
1692から涙を呑んでエスケープルートへ TkZちゃん救出
雲が降りてきた、1692から涙を呑んでエスケープへ

潜ったTkZを皆で掘り出す

テントサイト
テントを張る終わると雨脚が強くなってきた

 11:40 1220mポイントに到着。尾根に向かって「木ノ沢」という標識がつけられている。我々がエスケープDと名付けたルートだが、こちらに降りては荒海山のルートへの接続ができないので、我々が進むべきは北東の尾根だ。さてどうしようかと思っていたらポツポツと雨が降ってきた。ここまで降りてこれば先を急ぐ必要はない。時間は早いが今日はここで幕営することにした。ストレッチをしてテントを設営していたら、段々雨脚が強くなってきた。テントに入ると本格的な雨になった。まさにベストタイミングのテント設営だった。今回、お酒の準備は十分だったが、お茶の準備が足りなかった。長い午後、コーヒーを一杯飲んだ後は、ブランデーをお湯で薄く割って飲む。隣のテントに拝借に行ってもよいのだが外には出たくない天気。いつの間にか雨は雪に変わっていた。油麩と高野豆腐の煮つけ。どちらも軽い食材だが、煮付けりとしっかりとした味わいと舌触りがあって、長期山行の後半のベストメニューの一つである。夜中には、ずいぶん風の音がしたが、テントはそれほど揺られなかった。吹きさらしの場所のようにも思えたが、うまい具合に風の通り道から外れていたようだ。YbTさんが夜中に何度か外に出て、テントに積もった雪を落としてくれた。

2012年4月1日 日曜日 晴

朝日
夜の間に降った雪を朝日が照らす

948でお茶
948のベンチでお茶を沸かす

キャンプ場に向かって下る
夜の間に降った雪を朝日が照らす

948でお茶
林道を歩いて、荒海山のルートと接続する

 3時に起床。夜の間に前線は通り過ぎてしまったようで星が見えている。東に見えるのは鶏頂山スキー場の明かり。ミネストローネのオジヤの朝食。夜の間に15cmぐらいの積雪があったようだ。雪の下からワカンを探り出す。雪が降るときには、ワカンやアイゼンは、木につるしておいた方がいい。強風に備えてしっかり張ったステーを外すのにも手こずる。一度濡れたロープがしっかりと凍っている。
 5:30 思い思いの足回りで出発。ワカン組3名が先に進む。表面は新雪でおおわれているが、木の枝の下が空洞になっている。一度落ちると立ち直るのは大変。落ちたら交代、のルールで進む。1160m付近では、まっすぐに尾根を進んでしまうが、少し戻って、GPSを頼りに東の尾根に乗る。少しいやらしい痩せ尾根を通過して1077mに着く。
 6:40−58 雪は大分少なくなってきた。ワカンを外す。すっきりした青空。昨日は、横浜の方では強風で交通機関が麻痺して大変だったようだ。こちらの天気の崩れはそれほど大きくなく、また、うまい具合にテントの中でかわすことができた。昨年度は天気運が悪かったが、今年の天気の神様は、我々の味方になってくれるようだ。
 7:49−8:22 948mに到着。もう安ヶ森キャンプ場の領域だ。テーブルにコッフェルを出してお湯を沸かす。Bテントにお茶を提供してもらって皆で飲む。沸かし立てのお茶はおいしい。キャンプ場の散策路は西側を迂回するように作られているようだが、雪でルートがはっきりしない。それならばと、アイゼンをつけて、キャンプ場の建物を目指して一直線に下る。キャンプ場は、まだ営業していないようだが林道は除雪されていて、時折、車が通るのが見える。残り30mぐらいまで下ったところで崖に行く手を遮られる。30mロープをダブルにして左手を下ってみるが降り口に沢が流れているようで、登り返す。右手の長い急斜面を30mロープ2本をつないで懸垂下降する。下ったところはキャンプ場の散策路。白滝川を橋で渡ってロッジで荷を降ろす。
 9:48 カメラとGPSだけを持って、林道を安ヶ森峠に向けて歩く。すぐに除雪区間が終わり、雪が現れるが、初日と違い、気持ちも荷物も軽いのですいすいと歩ける。
 10:10 この先、「通行止め」の表示の場所に到着。これで、ルートがつながった。分水嶺は少々迂回してしまったが、その間に名前のあるような山はないし、今回の山行の内容も十分に満足できるものだったので、これでこの山域の分水嶺は踏破したということにしよう。記念撮影の後、ロッジに戻る。
 10:20−56 ロッジで荷物の整理。濡れたものを乾かす。携帯は通じない。もともと湯西川温泉まで歩く予定だった。
 11:25 県道249号線にでる。ホテル伴久の立派な建物がある。TuBが日帰り入浴ができるかどうか聞きに行くが、手をクロスして戻ってきた。破産手続き中、との張り紙があったとのこと。帰宅後、調べてみると昨年4/25に負債30億円を抱えて倒産したとのこと。湯西川ダムの工事などの影響で客足が減っていたところに、福島原発の風評被害で4月はほとんど予約が入らず、300年の歴史に幕を閉じたとのこと。日狩り温泉を探しながら県道を西に歩く。左手に立派な旅館が見えてきた。いかにも高級そうな旅館で登山帰りによる雰囲気ではない。「花と華」。こちらには何台かの車が停まっていた。この規模で経営するのはきっと苦しいだろう。ちょうど来たバスに乗って湯西川温泉駅に向かう。
 12:03 道の駅 湯西川に着き、「湯の郷」で汗を流す。相変わらず15:00で営業終了のお食事処で蕎麦を食べてビールを飲む。14:09発 快速浅草行に乗る。青空の下、雪が生える栃木の山々を見ながら岐路に着く。

 3度目の正直で枯木山をクリアした。今回の核心部は初日の長い林道歩きだった。どうなることやらと先を案じたが、尾根筋の藪はすっかりと雪で覆われ、雪庇にも安全に対処できた。心配していた寒冷前線もテントの中でやり過ごせて、なにもかもうまくいった、という山行だった。多分に「運」によるところが大きいが、運も実力の内、という言葉もあるので、今年は、この運を大切にしよう。

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