2011年12月9日〜11日
分水嶺26 山王峠〜荒海山
荒海山 東壁拝みて 良しとする

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Aテント MrT(CL)、UcD、MrK、SmZ
Bテント TuB(SL)、TkR、KwS、YbT

 前回、西側から登った荒海山。今回は東側から挑戦する。西側から見える丸みを帯びた姿とは異なり、東からは急峻な壁を持つ先鋒を見せる。冬支度を整え、安易な登攀は許さない。

2011年12月9日 金曜日 晴

 ここのところ定番となった7:10浅草発の東武線に乗る。今回の下車駅は男鹿高原。小さな無人駅。うっすらと雪が積もったホームには足跡も付いていない。ポストに切符を入れて階段を登ると、予約していたジャンボタクシーが待っていた。なんで、こんなところに駅ができたのかを聞くと、この先に小さな集落があるから、とのこと。確かに坂道を下っていくと10軒ほどの家が見えた。一日の状況客がゼロなんて日もあるに違いない。国道121号線に出て少し走ると山王峠の旧道入口に着きタクシーを降りる。10分ほどの乗車に対して、田島からの迎車料金を含め9,830円を支払う。メンバーが8人揃うと、このようなタクシーの使い方ができる。
 10:40 ストレッチをして出発。大きく迂回しているヘアピンをショートカットする。うっすら積もった雪が滑りやすい。
 11:02 旧道の峠に到着。ピンクのテープから斜面に取り付く。道路の作るために削られた斜面をトラバース気味に登って尾根に出る。尾根にも踏み跡が続いている。しばらく行くと道祖神があり、その直ぐ先には下野街道と書かれた札が立っていた。会津五街道のひとつで日光と会津若松を繋いでいた街道の跡である。12:24 ロボット雨量観測所を通過。田島町糸沢字栃木沢3314-2と書かれている。こんなところに、きちんとした住所があるのかと感心したが、田島町は5年前に合併して南会津町になっている。すでに存在しない住所だ。北側には七ヶ岳が見える。2週間前よりもずいぶん雪が増えたようだ。前回は霧氷が綺麗だったが、今回、木々の枝を飾っているのは雪だ。東北の山は、少しずつ表情を変えながら冬支度をしている。
旧道のヘアピンをショートカットする ロボット雨量観測所を通過
旧道のヘアピンをショートカットする

ロボット雨量観測所を通過

気持ちの良い尾根筋を歩く 木々の隙間から太郎と次郎を望む
気持ちの良い尾根筋を歩く

木々の隙間から太郎と次郎を望む

初日のテント場
尾根筋にテントを張れるスペースを見つける

13:07 1133.7mの三角点の写真を撮っていたら、先頭グループが真っ直ぐに行ってしまった。おーい、右折だよ、と声をかける。笹原を掻き分けて西の尾根を下りる。藪といえば藪だが、前回のことを思えば、至極快適なルートだ。正面に荒海山が見えてきた。次郎岳を脇に従えたピラミダルな山容。西側から見た表情とは違い、東側からは荒海という名にふさわしい凛々しさがある。写真を撮ろうと試みるが、木の枝が邪魔になり、なかなか写真が取れない。今日の幕営地の目安としていた1062のピークを通過。少し降りた尾根にテントを張るスペースを見つける。
 14:50 ストレッチをしてからテントを張る。次の仕事は、雪集め。周辺の積雪は3cm程しかない。全員総出でカップで雪を集める。10分ほどかけて、なんとか袋一杯の雪を集める。テントに入って、赤ワインで乾杯。今日のメニューはチーズフォンデュ。UcDが準備したチーズを取り出す。鍋に書ける前に少しずつ味見をさせてもらう。ベースとなる赤いゴーダチーズはマイルドな味。エメンタールは塩味が効いていて、とても香りが良い。グリュイエールは濃厚な味だ。赤ワインを飲みながらチーズをつまんでいると、それだけで幸せな気分になる。溶けたチーズを、バケット、ボロッコリー、ウィンナーを絡ませて食べる。コクのある味と香りを堪能。


2011年12月10日 土曜日 晴

 5:15に隣のテントの話し声で起きる。昨日は、チーズフォンデュで御機嫌になり目覚ましをセットせずに寝てしまった。5時起床、6時半出発の計画が最初からディレイ。生めんのうどんをじっくりと煮て朝食を作る。
 6:50 ストレッチをして出発。何とか予定よりも20分遅れで済んだと安堵していたら、KsMから「ちょっと待った」コールがかかる。GPSが無いと!。どこかに入っているはず、とは言うが、こういう気がかりを残したまま歩くのは事故の元なので、捜索を開始。全員監視の下、荷物検査。ザックの中身をすべて広げて探すが、なかなか見つからない。もしかして、とシュラフを広げたら、ぽろっと出てきて一安心。また、全員監視の下でパッキング。
 7:22 仕切りなおして出発。荒海山の頂上に登り、登山道経由で下山するのが今回の計画。しかし、出発前に、登山道の整備をしている三滝温泉のご主人に電話で伺ったところでは、荒海山の東稜は岩の急斜面で、この季節の登下降は無理とのことだった。そこで、栃木側に3つ、福島側に2つのエスケープルートを設定して、9割方はエスケープするつもりでいる。天気も良い。あせらずに、ゆっくり行こう。
 9:05−15 1173mの三角点があるはずのピークで休憩。三角点は見つからなかった。 11:14−32 高土山への分岐を右に分けて、鞍部を上り返したところで休憩。鞍部まで降りると、右から広い道が合流してきた。道を登ったところに鉄塔がある。会津若松の電源開発下郷発電所から今市に続く500kVの送電線。巨大な鉄塔で、2本の足は尾根の上、2本は10m以上下ったところから立っている。上の2本の足の間のスペースにはテントが数張り張れそうだ。鉄塔巡視路に沿って登っていく。急坂には階段が設置されている。しばらく行くと、巡視路が左にトラバースしていく。先を覗いてみたが、そのまま支尾根を降りているようなので、尾根に戻る。きつい藪だ。KwSが先頭で藪を切り開く。1273の三角点までの標高100mを1時間ほどかけて登る。
前半は快調な尾根歩き 送電線の鉄塔下は幕営適地
前半は快調な尾根歩き

送電線の鉄塔下は幕営適地

 13:11−28 少し休憩をして南斜面を下る。最初の鞍部で、この辺で幕営との声もかかるが、先に進む。高土山のエスケープを過ぎてしまったので、次のエスケープポイントは、中三依に降りる尾根まで行かないといけない。藪の状況によっては時間がかかるので、余り距離を残しての幕営は避けたかった。案の定、登りに入ると藪がきつくなる。
 14:30 ひとピーク越えて、荒海山が前方に望める斜面にテント二張り分のスペースを見つけて、今日の幕営地とする。若干の土木工事で斜面を修正してテントを張る。積雪は10cm程度あって雪集めは楽だ。ブランデーで乾杯。酒が足りなーい、と声をかけたら、隣のテントからTkRがウィスキーを差し入れてくれた。高野豆腐の煮つけを肴にちびちびと飲む。メインディッシュはカレー。MrKは食欲がないというので、3人で4人分を平らげてしまった。
鉄塔巡視路が終わると激藪が待っていた ちょっと傾斜はあるものの
鉄塔巡視路が終わると激藪が待っていた

ちょっと傾斜はあるものの正面に荒海山を望むテントサイト


2011年12月11日 日曜日 晴

 昨夜のブリーフィングで「明日は確実に降りられるように時間通りに出発しよう」と声を掛けておいたのが効いた様だ。予定時刻より15分早い4:30に起床。シラスや昆布など、トッピング一杯のふぐ茶漬け。今朝は、MrKも食欲があるようで一安心。 6:30にはストレッチが終わっていたのだが、恒例の待ったがかかり、6:42に出発。この程度は想定内。日本海側は雪が降っているようだが、関東は晴れの予想。分水嶺がどちらに転ぶかは時の運。大抵は悪いほうに転ぶのだが、今日は関東圏の晴天域に入ったようだ。前回に引き続き、天気に恵まれてありがたいことだ。 TkR,UcDとピッチごとにトップを交替して進んでいく。
 9:30−40 1266につながる尾根の方に出る。3つある中三依へのエスケープルートの最初のポイント。関東ぐるりの上野さんが使ったと思われる尾根だ。尾根上に踏み跡が続いているようには見えなかった。KwSがトップに立ち、西の尾根に下る。降り口に古い標札が掛けられていたが、何と書かれているのかは判読できなかった。正面には荒海山が見える。左に続くゴジラの背の様な尾根が前回我々が歩いたルートだ。我ながら良く歩いたものだと思う。荒海山の頂上もだいぶくっきりと見えてきた。頂上直下の急坂。雪がほとんど付いておらず、東壁とでも呼ぶべき岩の斜面だ。今日、登るのは到底不可能。次に来るとしても、それなりりクライミングの装備を持ってこなければならないだろう。登りたいという気持ちとともに、ここまで来て正面から東壁を見て、ある種の満足も感じられた。もう、この山域では十分に楽しんだ。今日は、福島側に降りて、前回の下山路と合流すれば、歩いたルートとしてはつながることになる。心の中で妥協が成立した。
荒海山と前回歩いた尾根
荒海山と前回歩いた尾根

1276から荒海山東壁を望む

 10:44−58 1276のピークで休憩。荒海山を仰ぎ見る。実に美しい山だ。この方向から、荒海山を見れたこと。それだけでも、3日間かけてここまで来た価値があった。ここから分水嶺を離れて北西の尾根を下る。ここは、「鳥ヶ森の住人」さんが開拓したルートだ。最初は、尾根がつかみにくいが傾斜はゆるく順調に下る。1170mまで降りたところで、先頭のYbTが行き詰る。様子を見に行くと崖になっていて先が見えない。30mロープでありられるかどうかも怪しい状況だ。KsMは、上のほうに尾根があった、という。このあたりは、尾根が複雑で、ここも一旦二つに分かれた尾根がひとつに合流する地形になっている。今、来ているのは右の尾根。無理をして下るよりも、もうひとつの尾根を偵察した方がよさそうだ。40mほど登り返して左の尾根に入る。地形図で見るよりも明瞭な尾根で尾根に沿って下っていったら主尾根に合流した。地図では読み取れないような痩せ尾根や急坂が出てくる。ところどころに厳しい藪も出てきてハードな道だ。
 12:40 1110mで先頭のTkRが行き詰る。木に掴まれば何とか下りられそう、との意見も出るが足下が見えない状況なのでロープを出して懸垂下降をすることにする。途中でバランスを崩したりしながら、なんとかロープいっぱい使って安定した場所まで降りる。左側を見ると垂直の岩壁になっている。とてもロープ無しでは降りられないところだった。場所が狭いので10mロープを補助的に張って安全な場所まで移動する。最後はUcDが手際よくロープを回収し、首にロープを掛けて降りてくる。なかなかキマッテいる。
核心部は写真取れず
核心部では写真を撮る余裕が無かった

まっすぐ行けばこの崖

 13:40 ロープを受け取って先に進む。1070mまで降りると、再び行き詰まる。主尾根を下るのは厳しそうだ。左の支尾根に入り、主尾根に回りこむチャンスをうかがう。しばらく行くと、主尾根が見通せる場所に出た。先のほうにはピンクテープが巻かれた木が何本か見える。やや傾斜がきついが、立ち木を支点にしながら、主尾根に向けてトラバースしていくのがよさそうだ。先ずはMrTがトップで30mロープで尾根を下る。直ぐそばの立ち木まで10mロープでトラバースし、もう一度、30mロープを使って急斜面をトラバース。落ちても命を落とすようなところではないが、ロープ無しで下るのは少し怖い。懸垂下降の練習に丁度良い場所だ。8人にメインロープ一本というのは、少なすぎた。30mが2本あれば、大分時間を短縮できただろう。緩斜面を慎重にトラバースしてたあと、もう一度、30mロープの懸垂下降をして、主尾根に戻る。そこからしばらく下ると林道に下りた。
MrKさん
力自慢はゴボウで降りる

さすがSL

トラバース
写真を撮ると緩斜面に見えるけれど

林道まで、水平距離100m、標高差60m

 15:22 前回、荒海山から登山道を降りたルートに合流。分水嶺からは1kmほど迂回してしまったが、一応、ルートとしては繋がった。分水嶺を離脱してからの核心部を無事に降りられたことに、胸を撫で下ろしながら林道を歩く。
 15:55−16:03 八総鉱山の鉱毒処理場の前で休憩。迎えを呼ぼうと思ったが携帯が通じない。お風呂に入ってから帰ろうと、先を急ぐ。
 16:35 荒海健康キャンプ場の前でYbTの携帯が通じる。夢の湯に電話をすると直ぐに迎えに来てくれるという。元気を出してしばらく歩くとマイクロバスが迎えに来てくれた。夢の湯に入るのは3回目。入浴後、囲炉裏のある広間で御主人と話しをしながら蕎麦を食べる。今回も、大根のキリヅケをサービスしてもらう。これは鉈で大根を切って味を浸みやすくしてつけたもの。おいしいおいしいといったら山盛りに出してくれた。これは、季節のものだから、いつもあると思ってもらったら困るよ、と、あと一ヶ月もすると沢庵が漬け上がるのだそうだ。これを目当てに泊まりに来る人もいるそうだ。
 前回と同じく、18:37 会津高原尾瀬口発の電車に乗る。一応、分水嶺のルートを繋げることはできた。しばらくは、この駅で降りることはないだろう。でも、荒海山の東壁。いつかは登ってみたい。

 荒海山に挑んだ2回の山行。厳しく、そして、楽しい山行であった。雪の降り始め、この地方が一番冷え込み、岩場の登攀にも技術を要するこの時期に、あえて挑んだ。予想を超える密藪、次々に現れる崖、なんでこんなところに来てしまったのだろうと何度も思いながら歩いた。でも、やっぱり楽しかった。厳しい藪を目の前にしても、メンバーの顔から笑顔が消えることは無かった。山の神様、ありがとう。

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