2011年11月5日〜7日
分水嶺24 男鹿岳〜山王峠
雨にも負けず 藪にも負けず 一途に目指す 分水嶺

ichiran ichiran  map

Aテント MrT(CL)、TuB(SL)、TkZ,UcD
Bテント KwS、YmS、YmT

 黒岩山から三本槍岳まで続く、福島/栃木県境の分水嶺は、田代山を過ぎると1000mから2000mの間でアップダウンを繰り返す密藪のルートとなる。男鹿岳までの区間を3回に分けて踏破する計画を立てた。当初は、南から順番に実施する予定であったが、無雪期の水の確保、アクセス路の冬季通行止めなどを考慮し、初回は男鹿岳に向かうことにした。

2011年11月5日 土曜日 曇り

 浅草駅7:10発の東武伊勢崎線快速会津田島行きに乗る。常連のメンバーに久々の参加となるUcDが加わり計7人。日程に平日が含まれているためか、男性は二人だけ、と、ちょっとバランスが悪い。会津田島まで3時間半の長旅である。時間つぶしにと持ってきた宗谷岬から下関までの分水嶺のルート図を見ながら、あれやこれやと先々のことに議論の花を咲かす。
 6両編成の電車は、ほぼ満席だ。下今市で日光行きの後ろ2両を切り離す。新藤原止まりの3両目に乗っていた我々は、会津田島まで行く前2両に乗り換える。浅草から会津田島までの乗車券は3,140円である。料金が高いのは3つの鉄道会社を乗り継いでいるからである。新藤原までが東武鉄道で路線距離146km、1,500円。会津高原尾瀬口までが野岩鉄道で30.7km 1,040円、会津田島までが15.4km 600円である。後ろ2社は、いずれも旧国鉄の路線を引き継いだ第三セクターの会社である。利用者が減り厳しい経営状態であるが、観光客の誘致など企業努力は積極的にやっているようだ。新藤原の次の龍王峡で観光客の多くが降りた。野岩鉄道は、路線距離の半分以上がトンネルになっている。トンネルを出ると橋を渡り、またトンネルに入る。チラッと見える山肌の紅葉がきれいだ。男鹿高原駅を過ぎると長いトンネルに入る。今回の山行の終着点の山王峠を抜けるトンネルである。トンネルを出ると会津高原駅、駅前に馬坂峠からの帰りに山菜そばを食べた食堂が見える。ここからは会津鉄道となり、阿賀川沿いに北上して会津田島に到着した。
 10:50 予約していたタクシーに乗る。YmSとKwSが駅の売店で、りんごと、なめこを買ってきた。大きなりんごをひとつ受け取ってザックに入れる。タクシーの運転手と話をしながら、大川峠に向かって走る。昔は田島町だったが、平成の合併で南会津町になったこと、町にはバス路線が無いので、この車両が住民の足として定期路線に使われていて、年齢によって300円などと利用料金が決まっていること、などを話してくれた。登山客は来ますか?の問いには「来ないね」の一言だった。男鹿岳も地元の篤志家が自家用車で来るところであって、遠くからタクシーを利用して登りに来る山ではないようだ。栗生沢の集落を過ぎると道が細くなる。標高780m地点にあるゲートの前でタクシーを降りる。「県境には栃木県で設置した鋼製ゲートがあり、通り抜けできません」という古い表示の横に、「当分の間通行止」との立て札がある。ここが通行止めになったのは、2009年の4月。当面、という言葉は、半永久的にという意味のようだ。直ぐ下の沢で、明日の行動分までの水を確保。
 11:40 ストレッチをしてから出発する。カサカサと枯葉を蹴散らしながら、緩やかな勾配の道を歩いていく。唐松の紅葉がきれいだ。一時間ほど歩いたところで休憩。駅で買ったりんごを7等分に切って食べる。さらに先に進むと、陥没したり、崩れてきた土砂で埋まっていたりと、道の状態が悪くなる。登山道と思えば歩きやすい道だが、2年前まで車が通れた道とは思えない。13:16 おじか沢橋を渡る。4mほどの道幅がある橋で、ここが車が走っていた道であることがわかる。ここは、直ぐに沢に降りられるので水場によさそうだ。山の幸を探しながら歩いたが、収穫できたのは、数房の山葡萄だけだった。
唐松の林道 崩れた林道
唐松の林道を歩く

崩れた林道

 14:50 大川峠に到着。広場のようになっていて、テントを4−5張は張れそうである。道は栃木側に伸びているが、かなり荒れている。明日歩く、男鹿岳への尾根を確認すると、しっかりした登山道になっていた。反対側、来年の残雪期に予定している黒滝股山へ向かう尾根にも赤テープがつけられていて、踏み跡が続いている。時間も早いし、11月とは思えないほど暖かなので外で食事とする。巻機山の日本酒で乾杯。YmSの梅酒をいただくが、どうも青臭い。今年漬けたものだとのこと、やはり、ひと冬は越させないとダメでしょう。そこで、TuB家の梅酒を味合わせていただく。砂糖を控えめにしてブランデーでつけた梅酒はとてもおいしい、、はずだったのだが、いつものまろやかさが無い。こちらは、しっかり一年間漬けたものだが、梅が不作だったのか、あるいは、口の中に青臭さが残っていただけだったのかもしれない。TuB家の梅酒を味合わせてもらうようになって、もう5年もたつんだなぁ、と思いながら我侭を言う。KwSの熱燗を頂き、UcDのGentlman Jackの滑らかな香りを味わって、自分で持ってきた酒を出す余地は無かった。メインディッシュはきのこ鍋。田島駅で買ったナメコダケを加えて、さらに豪華になった。明るいうちにテントに入る。明日は雨の予想だ。最新の天気予報をチェックしようと携帯の電源を入れたが圏外だった。イヤホンでラジオを聴きながらシュラフにもぐりこむが、天気予報を聞く前に夢の世界に落ちていった。
唐松の林道 崩れた林道
男鹿岳への登り口からテントサイトを見下ろす

久しぶりに外で食事


11月6日 日曜日 曇りのち雨

 4:30起床。マカロニ入りミネソトローネの朝食。ラジオの天気予報では、一日傘が手放せないでしょう、といっている。合羽を着こんで出発の準備をする。幸いなことに、雨は降り出していない。
 6:13出発。背丈ほどの笹が生えているがしっかりと道ができていて歩きやすい。山裾には雲がかかっているものの視界は良好だ。ぐいぐいと高度を稼いでいく。
倒木を超えて 崩れた林道
倒木を超えて栗生山へ登る

山裾には雲が沸くが空は明るい

 8:00−11 栗石山との標識がある1701mのピークを着く。ここから傾斜がゆるくなるものの、踏み跡は不明瞭になり、テープを頼りに藪をこぎ、倒木をまたいで登っていく。
 9:03−22 男鹿岳の頂上に到着。立派な標識があり記念写真を撮る。栃木100名山との標識もある。北西の方向には、分水嶺の尾根とそれに連なる那須岳の山々が見える。ここからが、本格的な藪にルートになる。懸垂下降に備えて安全ベルトをして出発。西に進路を取り藪を掻き分けていくと次第に尾根がはっきりしてくる。踏み跡はまったく無いが、下りなので調子よく降りていく。調子よく降りすぎて、栃木側の尾根に入り込んでしまう。右手に正しい尾根が見える。トラバースして正しい尾根に戻る。ほんの僅かの距離だったが笹につかまりながらのトラバースは体力を使う。
倒木を超えて 崩れた林道
男鹿岳 山頂

一尾根間違ってトラバースで復帰

 10:13−25 標高1600mの分水嶺の尾根に乗ったところで休憩。体勢を立て直してさらに下る。傾斜もゆるくなり歩きやすくなる。1400mの肩で左に、1320mの肩で右へと、ルートを確認しながら下っていく。尾根の栃木県側に踏み跡のようなものが続いているが、ところどころ危険なトラバースもあり、尾根の上を歩いていく。
 11:40−58 水平な尾根に入ったところで休憩して午後の行動計画を立てる。水の確保が最重要課題。地形図を見て1361.7m手前の鞍部から栃木に降りて水を確保することに決める。
 12:40 鞍部に到着。ザックの中身を出して、水容器と、ロープ、救急用品だけにする。女性陣には待機していてもらうことにしてKwSと二人で下る。鞍部からの沢筋に沿って降りていく。スラブ状の湿った岩で登山靴が滑る。脇の笹を掴みながら下る。標高で70mぐらい下ると、1361.7mピークからの沢筋と合流する。予想通り水を発見。
 12:56−13:06 水溜り状ではあるが、澄んでいてそのまま飲んでも大丈夫そうだ。KwSと二人で12リットルの水を汲んで登り返す。
倒木を超えて 崩れた林道
栃木県側には踏み跡が続く

水場発見

 13:20−50 鞍部に戻るとザックがあるだけで女性陣がいない。きっと幕場の偵察に行ったのだろう。ザックのパッキングをして、しばらく待っているとようやく上の方から声が聞こえだした。笛で合図をするが返答が無い。笛の音よりも女性の声の方が良く届くようだ。しばらくして、もう一度笛を吹くと応答があった。どうやらテントを張るスペースが見つかったようだ。女性陣が戻ってくるのを待って出発する。水を分配したが、結局自分の手元に6リットルの水が残ってしまった。お酒を入れると液体だけで7リットル。濡れたテントも入れるとザックの重さは25kg近くになっているかもしれない。ピークまで130mの登りだが、斜度もきつく、藪も煩い、体を傾けて倒木をくぐるたびに、ザックの重みが肩を襲う。女性陣は一度開拓した道なので、ぐいぐいと登っていく。必死で着いていく。
 14:37 1361.7mのピークに到着。三角点の前で記念撮影。消えかかった山名プレートもあった。小立九郎岳というらしいが、公認されている山名かどうかは怪しい。三角点の前に大きなテントを張ることにして、3人用のテントは、下の方で張ろうとしたが傾斜があり断念。4人テントの横の笹を刈ってスペースを作ることにしたようだ。KwSが鉈で笹を根元から刈っていく。そうこうしている内に雨脚が強まってきた。こちらは先にテントに入りワインで乾杯。隣では、まだ悪戦苦闘しているようだ。暖かいお茶でも入れてあげようか、と相談するが、好みもあるだろうから、ということになり、テントが張りあがった頃合いを見計らって、白湯の入ったテルモスを差し入れる。煮つけを肴にワイン、ウィスキーを飲む。「隣から白湯だけ?」との声がかかったので、バーボンを差し入れる。メイディッシュは親子丼。ここでは、携帯のアンテナが3本立った。明日も午前中は雨のようだ。
倒木を超えて 崩れた林道
小立九郎岳の三角点の前で

雨の中の開墾工事


11月7日 月曜日 曇りのち晴れ

 4:30起床。昨日のご飯に少しお湯を入れて暖めて、刻み海苔をかける。いろんな種類の海苔が入っていて香ばしい。大山のキャラブキもご飯に乗せて食べる。夜の間、そうとう強い雨が降っていたので心配したが、テントをたたむころにはやんでくれた。3人テントも、雨の中で整地をした甲斐があって安眠できたようだ。今日はいくつかのピークがあるものの、基本は下り調子。お昼ごろには山王峠に着けるだろうと見込む。
 6:17 北西に向けて藪に突入。次第に尾根がはっきりしてくるが、踏み跡は無い。かなり急な斜面を木や笹につかまりながら降りていく。 7:35−46 1250mのピークで休憩。予想以上の藪の深さにペースが上がらない。1200mの肩で木の枝に下げられたザックを発見。中は空、少し日数がたっているようだ。「サブザックをわすれただけ」ならば良いが。
急斜面を下る 崩れた林道
テントを張ったピークから急斜面を下る

大倉山 雨の中の記念撮影

 9:20−30 1220mの南に伸びたピークで休憩。タクシーの予約を入れる。ここまで3時間かけて行程の1/3しか来てないので、15:30にお願いする。少し戻って北西の尾根に乗る。
 10:20−26 1210mのピークで南を進路を変えた先のピークが1188.1mの三角点のあるピーク。大倉山との標識がある。ここから先は、しっかりした踏み跡とテープが現れる。ペースも上がり、きれいに色づいたモミジを愛でる余裕も出てくる。このあたりでは、はっきりした尾根は左にカーブしながら栃木側に下っていき、分水嶺の尾根は右に直角に分岐する、というパターンが繰り返し出てくる。今日は、KwSのルートファインディグが冴えている。GPSに頼るだけでなく、左右に分岐する尾根を確認しながら適所で声がかかる。それに引き換え、僕はどうも調子が出ない。GPSでの位置と実際の位置が2−30mずれているような気がしてすっきりとしない。
 12:35−55 1000mまで下ったところで先頭のKwSがルートがおかしいという。ここは、もっともルートがわかりにくいところだ。ここまでのパターンとは違って、真っ直ぐの尾根は福島側に降りてしまい。分水嶺は南にまがる。南に見えている956mのピークに登ればいいことは分かっているが、そこに向かう尾根は地形図でも読み取りにくいし、実際に南斜面は、急坂で下りれそうな尾根が無い。ここは、じっくりと考えることにして、少し登り返したところで休憩にする。再び、タクシー会社に電話をして、予約を1時間早めてほしいとお願いするが、タクシーが空いていないといわれる。2時半からは町内の路線ルートを走ることになっていて田島に戻ってくるのが3時なのだという。中型も空いていないということで、調整をしてから折り返し電話をしてもらうことにする。電話を待っている間に、KwSとルートの相談。KwSのGPSと僕のGPSを見比べると少し軌跡がずれていることがわかった。僕のGPSの電源を入れなおすと、福島側にいたポジションが20mほど動き栃木側に来た。いつもはGPSをザックの肩ベルトにつけているのだが、今日は雨に濡らしたくなくて首にかけて合羽の内側に入れていたのだが、その影響で電波をうまく受けられていなかったようだ。タクシーの方は希望通り14:30にジャンボを回してくれることになった。
 GPSの位置が修正されても、まだ県境のライン上に尾根は認められないのだが、木の幹につけられた青ペンキのマーカと、そこから下っている踏み跡を見つけて下る。踏み跡はジグザグに尾根を下り、967mのピークに導いてくれた。もうゴール間近。空も心持か明るくなってきて紅葉がきれいだ。GPSで山王トンネルの真上を通過したことを確認し、気を抜いて歩いていたらテープに誘われてルートを間違えてしまった。
 13:45 少し登り返して、西に曲がると直ぐに山王峠に降り立つ。舗装された道だが今わ使われておらず、落ち葉で覆われている。1980年に山王トンネルが開通して使われなくなった旧道である。「会津若松 67.7km」という表示が、かつては主要国道であったことを物語っている。
見事な紅葉 崩れた林道
見事な紅葉

旧道 山王峠

 14:00−32 くねくねとした車道を下り、最後はヘアピンカーブをショートカットして新道との合流点にあるチェーンステーションに降り立つ。念入りにストレッチをする。今頃になって青空が見えてきた。タクシーに乗り込み運転手さんと行き先の相談をする。日帰り温泉は、中三依と湯西川温泉にある。湯西川温泉は、道の駅になっていて食事もできるということなのでそちらに向かってもらう。
 15:00 湯西川温泉に到着。「湯の郷」で入浴。5年ほど前にできた施設で、混んでもおらず、のんびりと体を伸ばす。風呂から上がり、さて食事にしようかと思ったら、食堂は3時で閉店しました。とのこと。「え、湯上りの一杯のために、ここまでタクシー来たのに」、と思ったが仕様が無い。時刻表を見ると、次の電車は16:00発。急いで切符を買ってエレベータで地下に降りる。道の駅の下が、野岩鉄道のトンネル内駅になっているのだ。電車に乗り込んでビールを開ける。鬼怒川温泉でおりて、特急券とビールを手分けして購入。またもや宴会電車となり、車掌にお静かに、とたしなめられてしまった。浅草で降りて有志で蕎麦を食う。

 周期的な天気の崩れとシンクロしてしまい、合羽を着ての山行となった。しかし、行動中に強く降られることは無く、気温も、この季節としては暖かく、気持ちよく歩けた。著名な山があるわけでもなく、展望があるわけでもない。それでも、山はさまざまな表情を見せてくれ、時に、行く手を遮り、時に目を楽しませてくれる。純粋に山を楽しめるチームがここにある。次回はいよいよ、福島/栃木県境の中でも最も藪が厳しい枯木山に挑戦だ。峠まで車では入れるけれど、水は積雪から確保できる、という絶妙なタイミングを期待しているのだが、思惑通りにいくだろうか。。

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