2011年6月26日
分水嶺19 帝釈山〜田代山
梅雨の晴れ間のオサバ草

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 19回目を数える分水嶺の計画で、初めての日帰り山行。予定行動時間4時間というのも最短記録だ。福島/栃木県境の分水嶺は藪が厳しく、梅雨時に歩くような場所ではないのだが、オサバ草の群生があることで有名な帝釈山から田代山の間だけは登山道が作られている。今回は、全長6kmほどのコースを、花を楽しみながらのんびりと歩こうという企画だ。
 「オサバ草祭り」が開催される今の時期には賑わう馬坂峠ではあるが、アクセスが悪いことには違いがない。麓の檜枝岐から季節限定で運行されるシャトルタクシーも、檜枝岐温泉館に宿泊した人限定で、一般登山者は利用できない。この地域はタクシー会社も少なく、調べた範囲ではジャンボタクシーを持っているのは、2社で2台だけ。そこで、会に山行計画を出すのと共に、ジャンボタクシーの予約を入れて、アクセスの足を確保した。
 どのぐらいの人が集まってくれるだろうと心配していたのだが、なんと18名もの方が参加申し込みしてくれた。これでは、ジャンボタクシーでは乗り切れない。SLのTbさんが、早速アクションを起こし、バスの手配をしてくれた。登山に強い石黒タクシーに問い合わせたところ、この人数に対応できる車両がないということでRV観光のバスを紹介してくれた。片道に少なくとも5時間半はかかるとのことなので、横浜駅の出発は6:00とする。東京方面にお住まいのメンバーには厳しい時間だが、なんとか全員が集合可能であることを確認してほっとする。
 残る心配は天気だけ。週間天気予報では50%から70%をいったりきたり。この季節に、雨が降ることを心配しても仕方がないので、早々と「雨でも行きます」と宣言する。


6月26日 日曜日 雨 一時晴れ

 当日になっても曇り時々雨の予報。家を出るときも空は厚い雲だ。6:00に万里橋に集合。セブンイレブンで氷結ストロングを買い込んで、バスに備え付けの冷蔵庫に入れる。ザックを最後列の座席に乗せ、残りの座席に18名がちょうど収まる。バスは、首都高から東北道に入る。7時、蓮田SAで最初の休憩。ぽつぽつと雨が降っている。8:15西那須野のICを通過。8:30那須高原SAで最後の休憩。白河インターで下りて、阿武隈川に沿って289号線を西進する。この川は、甲子旭岳を源に阿武隈高地の西側をはるか仙台まで北上し太平洋に注いでいる。9:15甲子トンネルで分水嶺を通過。このトンネルは2008年に開通した新しいトンネル。このトンネルができたおかげで、檜枝岐に向かうのに、山王峠を通らずに、こちらを大回りしたほうが時間的には早くなったのだそうだ。大松川に沿って下り、会津鉄道にぶつかった所で左折して、阿賀川を遡る。この川は、会津盆地を経て新潟県にはいると阿賀野川と名を変えて、新潟で日本海に注ぐ川である。田島で会津鉄道と分かれて駒止トンネルを抜けると、只見川の支流の伊南川にでる。この川も、会津盆地で阿賀川と合流する。
 バスは分水嶺をいくつも超えると共に、梅雨前線もくぐる。この日の梅雨前線は、関東北部をゆっくりと北上している。梅雨前線の南側から出発したバスは、東北道を走りながら梅雨前線を追い越して、さらに、伊南川に沿って南下しながら、梅雨前線の南側にもどった。Hgさんの解説によると、午前中は女の神様の勢力が強くて雨が降るが、11時ごろに男の神様が勝って天気が良くなる、ということなのだが果たしてどうなるだろうか?
馬坂峠
馬坂峠

 川沿いに走っていくと、10:45に檜枝岐に到着。役場の隣のガソリンスタンドで給油する。ここから林道に入る。砂利道になり、スピードを落として登っていく。バスの通行には支障のない程度の道幅はあるが、すれ違いは大変だ。駐車場の間近になって大型バスと遭遇した。ずいぶんとバックして、何とかすれ違う。運転手さんは、もうここには来たくない、という表情だった。11:30に馬坂峠に到着。駐車場にもたくさんの車が止まっていた。オサバ草祭りの係りの人から記念バッチをもらう。
 駐車場の脇で昼食とする。天気はすっかり回復して、ところどころ青空が見えるほどだ。男の神様ががんばってくれたようだ。ストレッチ、自己紹介をして、12:10にスタート。すぐに、オサバ草の群落に出会う。最初の内は感動していたが、オサバ草の感動はだんだん薄れてしまう。なにしろ、あっちにもこっちにもオサバ草の群落があって、当たり前の様に咲いているのだ。むしろ、オサバ草以外の花を見つけながら歩くのが楽しい。ミツバオウレン、ツマトリソウ、コミヤマカタバミなどと、花に詳しい人が、いろいろと教えてくれるが、ひとつ覚えると、前のを忘れてしまうので、まったく知識が増えない。ゆっくりと1時間歩いて、12:55に帝釈山の頂上に到着。狭い頂上で、全員が入った写真を取るのに苦労する。目の前にあるのは、燧ヶ岳だとか、日光の山だとか、諸説が飛び交う。帰宅後に復習したところによれば、南に見えた3つの山が、女峰山、大真名子山、男体山。日光白根も台倉高山の先に見える場所ではあったが、雲がかかっていて見えなかったようだ。
オサバ草の群落 オサバ草
オサバ草の群落

オサバ草のかわいい花

ミツバオウレン コミヤマカタバミ
ミツバオウレン

コミヤマカタバミ

帝釈山
帝釈山の山頂で記念撮影

田代山へ向かって進む。ここからは、起伏の緩やかな穏やかな道。稜線上も花は豊富だ。シャクナゲ、ムラサキヤシオ、ベニサラサドウダンなどは、見落とすことは無いが、足下の小さな花は、なかなか見つけられない。後のほうから、イワナシだ、とか、ツバメオモトなどと、声がかかるたびに、引き返して花を探す。花山行の時には、花博士の後ろを歩くのが一番だ。ピンクの花のシロバナエンレイソウというのは、大変珍しいそうだが、先頭を歩いていた僕は見逃してしまった。
ベニサラサドウダン シャクナゲ
ベニサラサドウダン

シャクナゲ

イワナシ シロバナエンレイソウ
イワナシ

ピンクの花のシロバナエンレイソウ

14:25 田代山の避難小屋に到着。小屋では、先客が休憩していた。彼らはまもなく出発して場所を開けてくれたが、5−6人入ると一杯になるぐらいの広さで全員は入れない。この避難小屋は、弘法大師堂ともいわれ弘法大師坐像が祭られている。もうしばらく天気がもってくれることをお祈りしたが、お慈悲に預かれたのはここまで、ぽつぽつと雨が降ってきた。2/3ぐらいの人が雨具を身に着けて出発。
田代山避難小屋
帝釈山避難小屋

弘法大師堂 田代湿原
田代山避難小屋 弘法大師堂

田代湿原

水芭蕉 ワタスゲ
水芭蕉

ワタスゲ

チングルマ ハルリンドウ
チングルマ

ハルリンドウ

木道を少し歩くと広い湿原に出る。いきなり水芭蕉が迎えてくれた。標高1950m付近に広がるこの湿原は、尾瀬の湿原に比べて標高が500mほど高い。ここに来るまでの道にも、ところどころ残雪があった。花の時期も、尾瀬よりも一月ほど遅いのだろうか?一方通行の木道を左回りに歩く。チングルマやコイワカガミは群落を作って咲いている。足下には、ハルリンドウや、ヒメシャクナゲなどのかわいい花も咲いている。一段と雨が強くなってきた。僕は通り雨であることを願って雨具を付けずにがんぱって居たが、どうやらこれは、本格的な雨雲のようだ。振り返ると、いつのまにか僕を除いて、全員雨具を着ている。途中、木道が左右に別れ、右側の道は直ぐに行き止まりになっている。分水嶺の尾根は、行き止まりの道の先に続いているようだ。ちょっとのぞいてみるが、全く歩かれていないようで、しっかり藪に覆われている。分水嶺22では、ここから、枯木山に向かって歩くことにしているが、さて、通行止めのロープを跨いで、この先に進むべきかどうか、悩むところである。 もう少し歩いたところで、右側、猿倉登山口、との標識がある。田代湿原の一周には、1/3ほど残しているが、Tシャツ一枚で雨に振られ、風も出てきて寒くて仕方がないので、ここから下山することにする。滑りやすい道を慎重に下る。50cmを超えるような段差が頻繁に出ていて、なかなかの悪路である。ここで転んだらバスには乗れない、と、皆、慎重な足運びだ。幸か不幸か、こちら側の斜面にはほとんど花が無い。足下だけに集中して下る。雨はますます強くなる。ここまできたら、意地でも合羽は着ないが、びしょ濡れではバスに乗れなくなるので、傘を差して歩く。午後4時ちょうど、待ち合わせた時間に猿倉に到着。運転手さんが傘を差して出迎えてくれた。ストレッチも省略してバスに乗り込ませてもらう。林道は、ここから分水嶺を越えて、栃木県側の川治温泉まで続いているのだが、一般車はここで通行止めになっている。分水嶺22では、今日の道を登り返して、田代湿原から忠実に分水嶺を辿るか、ここから、林道を使って分水嶺に出るか、。降りながら眺めた尾根の様子を思うと、気持ちは後者に傾く。バスの中でシャツを着替える。
分水嶺はこの先 猿倉駐車場
分水嶺はこの先

猿倉駐車場から分水嶺の尾根に向かう林道

16:13 バスは林道を下っていく。未舗装ではあるが、馬坂峠側の林道よりは道幅が広く、路面も良い。17:44 山王トンネルで分水嶺を抜ける。車で走れば1時間半の距離を、2回に分けて、それぞれお2泊3日のヤブ山行で計画している。やはり、分水嶺はなかなか手強い。18:35新幹線で帰るメンバーを西那須野の駅で降ろして、東北道を南下する。渋滞の状況によっては夜中になるかと思っていたが、うとうととした目を開けたら、横浜の町並みだった。22:15横浜駅到着。

 4時間ほどの歩行時間に対して11時間以上を移動に費やした山行になった。梅雨空の下での強行であったが、お目当てのオサバ草を見ている間は青空ものぞくような天気になったのは、参加者の熱意が通じたためだろう。今回は、分水嶺というよりも、花も求めて参加された方が多かったようだ。分水嶺は、歩くルートは決まっているけれど、歩くスタイルは自由だ。修行と心得て、全ルートと右派を目指すのもよければ、おいしいルートのつまみ食いでもよい。新しい場所に行くたびに、新しい参加者を得て、山の楽しみ方のスタイルが広がっていく。分水嶺を完踏むする二十数年後、仲間は何人になっているだろう?楽しみである。

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